続、ふと思い出す本

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前回に引き続き読書ネタです。

普段全くテレビに触れない私にもロシアとウクライナの状況が刻一刻と悪化していることが伝わって来るのはSNSの発達のおかげです。大統領府の全てが情報を発信出来なくなっても、政府要人やそれ以外の各個人がTwitterなどのSNSで情報を発信出来るのだからすごい時代になったのもです。もちろん情報の出所もあやふやだったりするのでソースの確認は大切ですが、それを考えるとTwitterの公式マークはよく考えられたものですね。サーバーも中々ダウンしないだろうし。過去、日本で某ジブリ映画が金ローで放送されるたびにTwitterのサーバーが鍛え上げられていたことが懐かしい。

 

誰が正しくて誰が悪いのか、判断できるほどの情報を持ち合わせていない私はただ事の成り行きを傍観するしかないのですが、個人がSNSで個人の気持ちを簡単に拡散できることは良い面もあれば悪い面もあるなと流れてくるタイムラインで感じています。

 

1つの事象に対して多方面からの検証ができる人は少なくて、また情緒に訴えるものは過熱しやすく、熱狂の渦に巻き込まれて冷静な判断が出来なくなってしまうのだろうなと他所ごとながらに心配です。これは自分自身にも言えることで、なるべくいくつかの可能性を考えながら感情もコントロールしたいと心がけているのですが、未熟なのでそうそう旨くはいきません。

 

チェルノブイリの文字をニュースで見かけたのは久しぶりでした。ロシア軍が占拠したという大変遺憾な内容でした。

チェルノブイリと言えば誰もが思い出すのが1986年に起こった原発事故。ただの子供だった私も記憶に残っていましたが、その後読んだ本でより一層忘れられなくなりました。

 

高村薫の「神の火」です。

 

90年代冷戦末期の原発を巡るスパイミステリーと表現して良いのでしょうか。前半比較的ゆっくりと話が流れていきますが、中盤からスピードが加速して最後は振り落とされそうな程目紛しく進んでいき、最後は崖からダイブする感覚に襲われます。多分。

 

高村薫は連載から単行本化、また文庫化のたびにかなりの加筆修正する方で、「神の火」は単行本の初版から二版以降は改訂されているという読者泣かせな本です。蒐集癖な私は当時もちろん全部揃えていました。初版からかなり違うと言われたら読みたくなるのが人情というものです。もう今は全て手放してますが、電子書籍にならないので読み返したくなった際に文庫を再購入しました。それも人に薦めるために手放したのでもうありません。この文章を書いている時点でまた読みたくなっているので恐らく近々また購入してしまうことでしょう。

 

チェルノブイリで「神の火」を思い出すのは良くんの存在の為です。見た目は金髪碧眼で日本名を名乗っている青年です。この小説内でとても大事にされている存在でした。世界一安全な日本の原子炉が見たいと言った彼の言葉が今も忘れられません。

 

初めてこの小説を読んでいた当時、東海村の臨界事故が発生し、全然安全ではない日本の原子炉を目の当たりにして泣きました。彼がどんな思いで日本に来たのかを考えるとやりきれません。東日本大震災での福島第一原子力発電所事故でも良くんを思い出して泣いてました。今後も原発関連の事故が起こるたび、良くんに思いを馳せては涙する事でしょう。何故チェルノブイリで良くんを思い出すのかは、是非小説を読んで理解し、泣いてほしい。

 

高村薫の小説は一貫して性別に拘らない愛情を描く印象で、この作品も登場人物の男性同士の濃い関係性はなんだか友情を超えた、(性愛とまでは表現されない)愛を感じます。全体的に硬い文章で情景描写が多く取っ付きにくさを感じるかもしれませんが、段々文章内に色気が感じられる様になる事請け合いです。高村薫の性愛ではないけれど友情でもない愛情の関係性は大変好きです。